史上最悪のパンデミック・黒死病、その歴史と現在は?(下)

医療

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ペスト(黒死病)が引き起こした地獄絵図とは?

ペスト菌も発見されておらず、有効な治療法が存在しない時代は、ペストにかかると、人はなすすべがなく隔離と神に祈るのみでした。

人は、ある日、そけい部に腫れ物ができていることに気づいた瞬間、自分の運命を知ることになります。

腫れ物がだんだん大きくなるとともに身体は弱り、黒い斑点が身体のあちこちに現われます。

腫れ物を切開しますが何の効果はなく、発病して数日で苦悶のなかで息絶えます。

看病した人にも同じ症状がでるとわかると、病人は看病されなくなり、山野に捨てられる人も多くなりました。

 

 

 

 

 

 

 

死者を埋葬する墓地も満員となり、大きな穴に投げ捨てられる凄惨な光景が、国のあちこちで繰り広げられました。

幸いに病魔にかからなかった人々は、神に祈りながらペストが町から去って行くのを待つのみでした。

ペストは人の心や家族もズタズタにし、人々に正気を失わせました。

自分が生き延びることだけを考え、人々はお互いを警戒し、会わないようにしました。

多くの人が誰にも看取られず死に、多くの人が飢えました。

家族に病人が出ると、医者を呼んでくるといって戸口から出て行き、2度と戻っては来ませんでした。

子は親を捨て、夫は妻を捨て、妻は夫を捨て、親も子を捨てたといいます。

宗教もペスト(黒死病)を救えなかった

このような厄災の中で、本来人々の心を救済するのは宗教であり、聖職者や教会の役目です。

しかし宗教もほとんど人々の荒廃した心を救うことはできなかったといいます。

 

 

 

 

 

教会も一般人と同列で、傍観者で狼狽し、恐れるだけでした。

ローマ教皇クレメンス6世(1291-1352)は、ペストが教皇庁のあるアビィニヨンを襲うと市民を捨てて逃げ出します。

宗教者もペストの前では一人間に過ぎませんでした。実際、聖職者の死亡率は高かったようです。

ペスト患者の最後の告白を聞き、神の許しを与える地域の司祭の多くは肺ペストに感染しました。

良心的な聖職者ほど生き残れなかったといいます。

司祭不足のため粗製濫造で能力のない司祭が生み出され、教会の権威は失墜し、これが15世紀から始まる宗教改革運動のきっかけになったともいわれています。

ペスト(黒死病)撲滅へ北里柴三郎の功績

ペストの予防と治療に道を開いたのが、日本の北里柴三郎です。

1894年パンデミックが起こった香港に乗り込み、ペスト菌を発見します。日清戦争直前でした。

 

 

 

 

 

また同時期に、数日遅れでフランスの医師アレクサンダー・エルサンもペスト菌を発見しました。

ペスト菌は、結果的にエルサンの名前を取ったエルシニア・ペスティスと名付けられました。

北里がペスト菌を発見したことにより、ペストの耐熱性、消毒薬への耐性、媒体や感染経路の推定が可能になりました。こののち北里の抗血清により腺ペストの治療方法が確立されることになります。

北里柴三郎は伝染病予防の重要性を説き、1897年に「伝染病予防法」を成立させ、ネズミの駆除、下水道の整備などを促進させました。

その結果、日本ではペストは根絶され、ペストのない国となることができたのです。

1943年にはペストなどに有効な抗生物質ストレプトマイシンが発見され、適切な投薬を行えば、ペストの治療ができるようになりました。

黒死病の現在は?撲滅された?

ペストの大規模流行は1910年に終わったとされています。

しかしCNNの報道では2019年11月、中国で2人が肺ペストと診断されたと報じています。5月にはモンゴルでマーモットの腎臓を生で食べた夫婦が腺ペストで死亡しています。

さらに数日後、内モンゴルでハンターが腺ペストと診断され28人が隔離されたと新華社通信が伝えています。ハンターが野ウサギを食べたことが原因といわれています。

WHOの発表では2004年~2015年の12年間で、全世界で56,734人が感染し、死亡者は4,651人です。

国別の感染者数は、マダガスカル(14,175人)、コンゴ(14,175人)、タンザニア(6,448人)、ベトナム(3,425人)、インド(900人)です。

特にマダガスカルでは2017年8月から11月の4ヶ月間にペストが流行し患者数は2,348人死亡者は202人で、そのうち肺ペストは1,791人が感染しています。

また米国疾病対策センター(CDC)によると米国でも年間数人から数十人の症例が報告されています。

北米では、ペスト菌がリスやプレリードッグなど山中のネズミ類に拡散してしまったので、ペストの根絶は困難とされています。

このように、現代でも依然としてペストは世界のどこかで生き続けているのです。

新型コロナウィルスと「ペスト」

2020年新型コロナウィルスの感染拡大が止まらない状況で、SNSを使ったデマによるマスク、消毒薬、トイレットペーパー、ティッシュの入手困難さなど、国民の不安は増大するばかりです。

 

 

 

 

このような中で、日本では、カミュの小説「ペスト」の売れ行きが急増していて、新潮社では1万4千部の増刷を決めたそうです。

小説「ペスト」は、突如発生したペストの恐怖やペストと戦う市民を描いた作品です。

感染拡大を防ぐため、町は封鎖され、愛する人との別れと孤立状態となった主人公の医者リウーの戦いを描いています。

役人たちが議論ばかりで行動をともなわない状況に、リウーは友人とチームを組織し被害を押さえようとします。やがて同志も増え、メンバーの心も一体となるのですが、次々とメンバーもペストに倒れていくのです。

「ペスト」がなぜ今読まれるのでしょうか?

現状の新型コロナウィルスとは、もちろん重篤さは天と地のように違いますが、感染への恐怖、政治・行政の対応の遅れや、デマの拡散など現状の日本を彷彿とさせるからなのでしょうか?

最後までおつきあいありがとうございました。

参考:「ペスト」中世ヨーロッパを揺るがせた大災禍/加藤茂孝:「中世の秋」を生きた教会の希望/片山寛:国立感染症研究所HP:厚生労働省検疫所FORTH






コメント

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