新型コロナウイルスとスーパースプレッターそして「チフスのメアリー」とは?

医療

新型コロナウイルスパンデミックは、発生源の中国ではピークを越えたといわれますが、その他の地域は、依然、感染拡大がとまりません。

政府の専門家会議は「10~30代の若者は感染しても、症状が出なかったり、軽い症状の人が多く、感染に気づかないまま行動して、重症化しやすい高齢者基礎疾患のある人(糖尿病・高血圧・腎臓病など慢性疾患があり内服薬を必要としている人)に感染させる可能性がある」との見解を示しました。

都市部の感染リスクの高い場所に集まった若者の間で感染が広がり、症状の軽いまま他の地域に分散、感染を拡大させているのではないかと推測しています。

 

 

 

 

 

例えば北海道では、エビデンスはないものの、報告されている感染者数の10倍のぐらいの感染者が若年層で広がっていると考えないと説明がつかないというのです。

そして、全国の若者に対して「人が集まる風通しの悪い場所を避けるだけで、多くの人を救えます」と呼びかけました。

スーパースプレッダーとは?

ウイルスの流行期には、感染者を一気に拡大させる人がいて、その人を「スーパースプレッダー」といいます。

「スーパースプレッダー」とは、多くの人への感染源になった人ですが、その多くは無症候性感染者軽症状患者です。

感染の拡大を止めるにはこの「スーパースプレッダー」の出現を防止することが大変重要なのです。

若者への要請は「スーパースプレッダー」にならないように行動してくださいということなのでしょう。

英国では、出張先のシンガポールで新型コロナウイルスに感染した一人の男性が帰国して、無症状のまま、11人にウイルスをうつした「スーパースプレッダー」だったという事例を報道しています。

 

 

 

 

日本でも、すでに、一人の新型コロナウイルス感染者から多くの人に感染した事例が出ています。

例えば屋形船スポーツジムライブハウスから多数の感染者を出した事案がそうで、「スーパースプレッダー」の存在の可能性があります。

今後のために感染ルートを明確にしてもらいたいのですが、一方、人権問題にも十分に配慮しなくてはなりません。

スーパースプレッダー「チフスのメアリー(Typhoid Mary)」とは?

「スーパースプレッダー」の有名な例として米国の「チフスのメアリー(Typhoid Mary)」事件があり、今日から考えると人権問題にも課題を残しています。

後に「チフスのメアリー(Typhoid Mary)」と呼ばれた女性の名は、メアリー・マロン(Mary Mallone)といいます。

事件の概要は次の通りです。

19世紀末のことですが、メアリー・マロンはわずか14歳でアイルランドから単身でニューヨークへ移住しました。

最初は家事使用人として奉公していましたが、料理の腕前を認められ、30歳頃から富豪の家の住み込みの料理人として働き始めました。

 

 

 

 

 

当時のニューヨークでは、スラム街でのチフスの流行は日常でも散発的におきることでしたが、何軒かの富豪の邸宅で連続してチフス患者が発生しました。

1900年から1907年の間に20人以上もの患者が出現し、その中の1人は重症となって死亡したのです。

この被害にあった富豪の1人から原因の究明を依頼された、衛生学者のソーパー博士はまもなく、料理人としてメアリー・マロンが雇われた直後からチフスが発生し、彼女がよその邸宅へ引き抜かれると、今度はそちらで同じように患者が出現したことに気づきました。

メアリーが原因らしいと考えたソーパーは、排泄物(尿と糞便)の検体の採取を求めたところ、怒り狂った彼女は調理用の大きなフォークを武器として暴れ回り拒絶しました。

しかし、警察の手で強制的に身柄を拘束され、検査すると排泄物からチフス菌が検出されたため、隔離病棟に厳重に収容されたのです。

ところが本人は全く自覚症状がなく、保菌者であるということを絶対認めようとしませんでした。

彼女は無症候性感染者(不顕性感染者)だったのです。

彼女は不当に自由を制限されたと弁護士を雇って裁判を起こし、2年後に自由の身となりました。

ただし(1)料理人にはならないこと、(2)居住地を明らかしておくこと、という条件で自由の身になりましたが、やがて行方不明となりました。

ところが、しばらくして、ニューヨークの産婦人科病院で、チフスが発生し、20人以上の感染者と2人の死者が出ました。

当局が調査すると、なんとメアリー・マロンが偽名で再び料理人として働いていたのです。

当然、有無を言わさず彼女は再隔離され、厳重に監視されて一生を送ることになりました。

「チフスのメアリー」は悲劇の女性?

彼女は約23年隔離され、そのまま1938年に亡くなったのですが、病理解剖の結果、胆のうに腸チフス菌の感染巣が発見され、生涯にわたって胆汁と共に生きたチフス菌を排出し続けていたことが明らかになりました。

メアリーは隔離されたとき、自分が感染源であることを受け入れませんでした。

これは当時、無症候性感染者(不顕性感染者)という概念が一般化していなかったこと、移民に対する不当な差別もあったことから、自分も差別を受けているとの反発もあったと思われます。

実は、腸チフスの無症候性感染者は他にもいて、もっと大きな被害を引き起こしていたのですが、不幸にもメアリーだけが、その後、一生を隔離されて過ごすことになり「チフスのメアリー」という悪名を残されたのです。

 

 

 

 

 

メアリー・マロンは、差別と感染症への無知の時代における悲劇の女性とも言えるのかも知れませんね。

「チフスのメアリー」は米国でテレビドラマ化され、有名女優エリザベス・モスがメアリー役を演じるようです。

今回の新型コロナウイルスの場合も、本人は発症していないのにウイルスをばらまく「スーパースプレッダー」の存在が問題となります。

しかし、一方で「チフスのメアリー」のような悲劇が起こらないように、人権に配慮した対応が求められます。



 








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