地球最大の島、グリーンランド・トランプ大統領の買収意図は?(下)

世界の旅

グリーンランドの政治体制は?

 

グリーンランドの政府は、選挙で当選した31人の議員からなる立法府(議会:Inatsisartut)と、9人のメンバーが大臣を務める行政府(Naalakkersuisut)で構成され、議会選挙は通常4年に1度行われます。

グリーンランドの政治勢力は1976年に結党された北方先住民連帯を目指すイヌイット同盟党、デンマークとの連帯を党是とするアタスット党、自治権確立を目指す社会民主主義政党のシウムット党などがあります。

2013年3月半ばの選挙で、シウムット党(Siumut Party)が第一党となり、アレガ・ハモンド党首がグリーンランド初の女性の自治政府首相となりました。現在は同党のキム・キールセンが第7代首相です。

グリーンランドの産業は?

一方、グリーランドの産業は、輸出額が2013年には88%を占める水産物とその加工品に依存しています。

水産業の次に重要な産業は観光で、外貨収入の10%を占めています。

世界各地からの観光客数は年々増加しており、2011年における国内のホテル宿泊者数は延べ約21万 3,000人にのぼりました。

 

 

 

 

またクルーズ観光の拠点としても多くの観光船も受け入れています。2010年には350隻のクルーズ船がグリーンランドに寄港し、約29,000人の観光客が訪れました。

 

農業の中心は野菜生産牧羊、そしてトナカイの飼育です。

またグリーンランドアザラシをはじめとする動物の皮革や毛皮製品も、輸出の一部を占めています。

しかしながら、それでもグリーンランド経済の脆弱さは否定できず、デンマークからの経済支援に頼らざるを得ません。

デンマーク政府はグリーンランド政府に対し、年間約600億円以上の補助金を交付しています。この補助金はグリーンランド歳入の約56%を占めています。
ところが近年、グリーンランドの天然資源に世界中の企業や投資家の注目が集まっています。

グリーンランドには石油・天然ガスだけでなく金・ルビジウム・ダイヤモンド・銅・カンラン石・大理石・プラチナなど多数の鉱物資源が存在し、経済ポテンシャルは計り知れないといわれています。

近年の温暖化による大規模な氷床の融解にともない、これらの鉱物資源へのアクセスが可能となってきたからです。

そのためグリーンランド政府は、この分野の優先順位を高めており、国の長期的な経済構造に変化をもたらすと予想しています。

外国資本の動きが活発になるとともに、自治政府も例えばウラン等の海外輸出も視野においた大規模プロジェクトの実現に向け動き出しています。

グリーンランドの政治は、地下資源をねらう各国の思惑のなかで、産業構造の急激な変化とデンマークからの独立という最終のゴールに向って大きく変貌しようとしています。

トランプ大統領のグリーンランド買収意図とは?

米国のトランプ大統領は2019年8月18日、グリーンランドの買収について「政権内で協議している」と言及しました。

デンマークのフレデリクセン首相「馬鹿げた話だ、国民を金で売ることはできない」と一蹴したことでこの話は一応決着しましたが、トランプ大統領の意図はどこにあるのでしょうか?

米国がグリーンランドをほしい背景は?

 

米国がグリーンランドに関心がある背景は次の2点といわれています。
一つは軍事上の必要性です。

 

グリーンランドは、北極から地球をみると、北米とヨーロッパの中間に位置し、軍事・防衛上の戦略拠点です。

米国はすでにグリーンランド北部のチューレに空軍基地を置き、弾道ミサイルの早期警戒、戦略爆撃機、人工衛星の追跡を行っています。

ロシアに対してはINF(中距離核戦力全廃)条約の破棄にともない、米国としてにらみをきかせる必要があり、モスクワまでわずか3600kmしかないチューレは、格好の軍事拠点なのです。

中国も「一帯一路」という世界進出の一貫で、北極圏への勢力拡大をねらっています。

旧米軍基地の買収や米軍基地の隣接する空港建設の入札に参加しようとしましたが、米国の意向を受けたデンマーク政府が拒否しましたものの、その後もグリーンランドでの動きを活発化しています。

したがって、チューレ空軍基地はミサイル防衛システムの重要な拠点として、その価値はさらに高まっているのです。

もう一つはグリーンランドがもつ鉱物資源です。

石油、天然ガスのほか75種を超える豊富なレアアースが地下に眠っているといわれており、それが温暖化の影響で氷床が溶解し、低コストで容易に採掘できるようになるとみられています。

世界のレアアース市場では中国が圧倒的な占有をしており、中国と激しい貿易戦争を繰り広げている米国にとっては、グリーンランドの資源は喉から手が出るほどほしい状況にあると言って良いのでしょう。

また中国もグリーンランドの資源をねらい活動を活発化しているのです。

米国の北極圏政策とは?

 

以上のような背景の中で、2019年5月7日フィンランドで「北極評議会」(AC:Arctic Council)が、開催されました。

そこでポンペオ国務長官は米国の北極政策について次のようなスピーチをしています。

まず、グリーンランドを含む北極圏に対する基本認識については

・北極は力と競争の場になり、新たな脅威をともなう時代に入った
・北極海は戦略的重要性を帯び、海氷減少は新たな可能性を開き、資源は競争の対象となった。
・北極海航路は21世紀のスエズ・パナマ運河となる。

とし、

北極圏での中国・ロシアの活動へ懸念を表明しました。

・中国は北極で軍事的プレゼンスを高めようとしており、発言や行動には疑念がある。
・北極海が新たな南シナ海になることを懸念する。

・ロシアは北極海航路での船舶航行に不当に軍事力で脅しをしている。
・ロシアは冷戦時の北極軍事基地を再稼働し軍事プレゼンスを強化しようとしている。

これに対し米国としては、米軍と北極圏パートナーへの関与を強化し、北極における安全保障上・外交上のプレゼンスを高めていく。また環境に責任ある方法での資源開発をコミットする、としています。

この3ヶ月後にトランプ大統領はグリーンランド買収の発言をしたのです。

もちろん、グリーンランド買収は可能性の低い選択肢の一つに過ぎません。

その効果の是非はさておき、米国はグリーンランドを含む北極圏に強い関心を持っているというメッセージととらえるべきでしょう。

未知の島グリーンランドとは?トランプの買収意図は?まとめ

 

グリーンランドの国際的な重要性は、これまで、極寒という環境のため比較的軽視されていました。

しかし、現在、地球温暖化という環境要因により、天然資源に対する各国の思惑安全保障上の要所としての見直しで、国際政治上、重要な島として注目が集まっています。

日本ではあまり知られなかったグリーンランドですが、今後、日本でも、関心が高まっていくことは間違いありません。

おつきあい、ありがとうございました。

参考文献:デンマーク大使館HP
     :アイスランド・グリーンランド・北極を知るための65章 :日本外務省資料






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