私たち、新人類(ホモ・サピエンス)は、かつてアフリカで、チンパンジーなどの人類猿と訣別(けつべつ)して以来、気の遠くなるような時間をかけて、地球の唯一の種族となりました。
最期のステージで、新人類と覇権争いをしたのがネアンデルタール人です。
ネアンデルタール人は、今から、約20万年前、ヨーロッパ大陸に出現し、4~3万年前に滅亡しました。
私たちは、ネアンデルタール人といえば、野獣のように、毛深く凶暴なイメージを想像しますが、本当はどのような人種だったのでしょうか。
そしてなぜ滅亡したのでしょうか?
類人猿からネアンデルタール人までの過程は?
人類は、類人猿・猿人・原人・旧人・新人(ホモ・サピエンス)というステップで進化してきました。
旧人・ネアンデルタール人の誕生までを見ていきましょう。
①類人猿(ホミノイド)
2800万年から2400万年前に、霊長類から類人猿に分岐したといわれます。
類人猿は、ヒトに似た形態と、高い知能を持ち、社会的な生活を営みました。
現存するのは、オランウータン、チンパンジー、ゴリラ、テナガザルです。
②猿人
いまから600万年前のころ、アフリカ大陸で類人猿から猿人が分岐しました。
初期の猿人は森で木に登り、果物を食べて暮らし、二本足で地上を歩くこともありましたが、やがて森から草原に進出しました。
代表的な猿人はアウストラロピテクス・アファレンシスで、400万年前から300万年前の間に、出現し、身長140~150cmくらいです。脳容量は500ccでした。
1974年にエチオピアで発見され、「ルーシー」と名付けられました。名前はビートルズの曲「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウイズ・ダイアモンズ」に由来します。
ルーシーは右上腕部に骨折の痕があり、おそらく木から落ちた負傷により死亡したのではないかと言われています。
③原人
200万年前頃出現し、道具や火を使っていたと言われています。脳容量1000ccです。
主な種を上げますと、
・ホモ・ハビリス
猿人と原人の過度的な種で200万年前に出現し、石器を使い、動物の肉を切り取ったりして食べました。
・ホモ・エレクトス(ジャワ原人/北京原人)
180~50万年前に活動、身長は160~180cmあり、体毛も少なくなったと思われます。
ジャワ原人はアフリカを越えてアジアにまで広がった最初の人類です。
北京原人は石器や火の使用の痕跡があり、動物を焼いて食べたといわれています。
DNA解析により新人につながらず、10万年程前に絶滅したようです。
④旧人
・ホモ・ハイデルベルゲンシス
90~60万年前、アフリカの原人の中から、旧人・ホモ・ハイデルベルゲンシスが誕生しました。
脳容量は1100cc~1500ccと大きく、洗練された石器を使い、身長は180cm、体重100キロの大柄と推定されます。
このホモ・ハイデルベルゲンシスが、旧人・ネアンデルタール人と新人(ホモ・サピエンス)・クロマニヨン人の共通の祖先で、現人類の直系の祖先ということにもなります。
ネアンデルタール人とは、その誕生は?特徴とは?
アフリカで誕生したホモ・ハイデルベルゲンシスは、アウト・オブ・アフリカといわれるアフリカ大陸からの拡散により、ヨーロッパ大陸に上陸します。
このホモ・ハイデルベルゲンシスがヨーロッパでネアンデルタール人に進化します。
20万年前、ヨーロッパ大陸は、最期の氷河時代でした。アフリカの熱帯・亜熱帯で誕生した彼らがヨーロッパの寒冷環境に順応しながら変身していった最終形がネアンデルタール人というわけです。
ネアンデルタール人の最初の発見は、1856年、ドイツの「ネアンデルの谷(タール)」でしたが、その後ヨーロッパから西アジアまで広く分布して発見されました。
その身体的特徴は、幅広で大きい鼻、眼の上の骨が隆起し、胴長短足で幅広の胸部、がっちりした筋肉隆々とした体型などでした。
そして、彼らは毛皮をまとい、洞窟に住んで、石器を使い狩猟採集の生活を行っていました。
石器は、原石をはがし鋭利な石刃のついた剥片石器(はくへんせっき)を作ることができました。これは、ルヴァロワ式石器といい旧石器文化の最も発達した段階です。
また、死者を埋葬する風習を持ち、人骨の回りから花粉の化石が見つかったことから、花を添えたと推測して死を悼む心があったのではないかともといわれます。
脳容量は1300~1600ccで新人(ホモ・サピエンス)より大きく、大脳皮質や、前頭葉が発達していたようで、言葉を使ったことが考えられるようです。
一方、20万年前、アフリカに残ったホモ・ハイデルベルゲンシスからは、現代人の祖先である新人(ホモ・サピエンス)が出現します。
彼らは、先発隊に遅れ、約4万5千年前にユーラシア大陸各地に移り住みます。
これが代表的な新人・クロマニヨン人で、現代人と変わりません。
1868年フランスのクロマ二ヨンで鉄道工事中に発見されました。
石器は石刃技法と言われ、原石から多量の石刃を剥離させる高度な製造方法で、さらに、石刃を細かく加工して、投げ槍、弓矢などを作り、狩猟、漁労技術を飛躍的に高めました。
フランスのラスコーやスペインのアルタミラの洞窟絵画で見られるように芸術表現や抽象化の能力がありました。
そして、先住しているネアンデルタール人と新規の移住者クロマニヨン人は、ヨーロッパで遭遇することになります。
かつてはネアンデルタール人が新人・クロマニヨン人に進化したという説がありましたが、現在では明確に否定され、新人(ホモ・サピエンス)のアフリカ大陸起源説が定着しています。
ネアンデルタール人とクロマニヨン人は1万年近くヨーロッパで共存しました。
そして、3~4万年前に、ネアンデルタール人は絶滅したのです。
ネアンデルタール人の絶滅、その原因は?
なぜ、ネアンデルタール人は滅亡したのでしょうか?
遭遇した2種族に何が起こったのでしょうか。
ネアンデルタール人滅亡の理由については、下記のような多くの仮説が存在します。
① 新人との暴力的な衝突に敗れ、滅んでいったとする説で一番多い仮説です。
② 新人は投槍器や弓など高度な武器を使って圧倒的に有利な狩猟を行い、勢力を拡大させたが、反対にネアンデルタール人は狩猟に劣り、徐々に勢力を失い衰退したとする説
③ 新人のDNAにはネアンデルタール人のDNAが混じっていることから、新人と混血を重ね、しだいに吸収されていったとする混血説
④ 新人は高度なコミュニケーション能力をもち、共同で狩猟を行うなどで勢力を拡大していったがネアンデルタール人は個人または少人数の活動で、新人に対抗できず衰退したという説
⑤ 新人が持ち込んだ感染症に免疫力を持たず、徐々に滅んでいったとする疾病説
⑥ イタリアなど複数の火山の噴火で食糧不足などが起こり、特にネアンデルタール人に壊滅的な影響を与えたとする説
などの要因が上げられますが、今のところ、確固たる証拠が見つかってはいません。
おそらく、ひとつの原因だけでなく、いろいろな要因が絡まりながら、ネアンデルタール人の滅亡につながっていったのでしょう。
変わりつつあるネアンデルタール人の実像
ところで、これまで、ネアンデルタール人は、凶暴な人種というイメージがありましたが、近年、そのような見方は変わりつつあるようです。
例えば、イラクのシャニダール洞窟の発掘では、家族生活を営み、仲間を手厚く葬ったり、病人を介護していた様子がうかがわれます。
したがって、ネアンデルタール人は意外に温和な人種だった可能性があります。
一方、新人(ホモ・サピエンス)は、身体的にはネアンデルタール人に劣り、性格の穏やかなイメージです。
しかし、現代までの歴史を顧みる時、残忍で、欲望を満たすための策謀をめぐらすことに長けている側面も否定できません。
知性や、理性を獲得する前の新人(ホモ・サピエンス)は、その性向は凶暴だった可能性があります。
加えて、コミュニケーション能力による共同行動に優れ、投槍や弓という高度な武器を使用しました。
ですから、穏やかな性格を有するネアンデルタール人は、新人(ホモ・サピエンス)に対抗できず、徐々に劣勢となり、滅んでいったのかも知れません。
次の交代劇はいつ?次の人類は?
ネアンデルタール人が去り、4~5万年が過ぎました。
私たち、新人類(ホモ・サピエンス)も、いつかは地上の覇者としての地位を、明け渡す時が来るのは間違いありません。
これまで見てきた歴史が教えるところです。
その交替劇はいつ起こるのでしょうか?
あるいは既に始まっているのでしょうか。
我々を継ぐ、新しい人類はどこかで誕生しているのでしょうか。
そして、それはどのような人類なのでしょうか?
参考:「人類史の分かれ目/旧人ネアンデルタール人と新人サピエンスの交替劇」赤澤威
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