私は毎年、株主総会で経営を担当することの承認をいただいた翌日、従業員の全員集会と幹部職員を集め、下記の「行動指針」(前回紹介)と「部門別要請事項」を提示し、部門での展開をお願いしました。
今回は「部門別要請事項」を紹介します。
部門別要請事項は、経営者が会社の経営目標を達成するために各部門に実施してほしいアクションのリストです。
したがって、まずまずその経営目標が共有されている必要があります。
また経営者から見て、その部門の担当業務のなかでレベルアップしてもらいたい事項でもありますので、そのことを部門長には理解してもらわねばなりません。
そこで、部門別要請事項を作成する際には、各部門長と個別にミーティングを行い、前期のアクションの振り返りと今年の経営目標を確認して今期のその部門の課題を議論します。
このミーティングにおいては幹部の前年の業績評価や人事構想も話し合うことになります。
このミーティングは期中も実施し、会社の現状を踏まえた要請事項に修正するようにしました。
部門別要請事項について
以下は都合により抜粋・要約して紹介します。
1. 中期経営計画
・適宜、フォローし経営状況を踏まえた見直し
・中計の目標共有化を図るため合宿幹部研修を企画
・関係部門と協議し長期設備投資計画の実施に着手
2. 損益管理
・損益フォローの精度アップ
・今期の利益目標を達成するためアクションプランを立案
3. 資金管理
・期中借入金の減少と期末借入金残高0を達成
4. 原価管理
・各部門の原価管理強化
5. 人材育成
・定期・中途を問わず採用活動を強化
・社外研修派遣など人材のレベルアップ
・会社の将来を勘案した人材育成計画を立案
・女性の活用を促進し、まずチームリーダー登用を目指す
6. 業務効率化
・会議の効率化、ペーパーレス化を推進
・全部門と連携し長時間労働の抑制
7. 安全衛生活動
・リスクアセスメント、過去災害フォロー、ヒヤリハットカード活用、KYM・ TBM等職場ミーティング活性化
8. 広報活動を強化
9. 全社システムの更新と更なるIT化
10. コンプライアンスについて啓蒙と浸透
1. 営業戦略
・市場・顧客・競合会社の動向の正確な情報把握と営業戦略への反映
・過度な価格競争を避けるため戦略的提案型営業を推進
・新規顧客の開拓
・民間向けを販売代理店と連携して拡大
・大規模工場において積極的な需要の発掘
・海外案件は商社の活用等により拡大を図るとともに要員の育成
・機器販売は顧客本位の攻めの営業で売上拡大
・新規事業・新分野進出について積極的に検討
2.クレームは代理店・機器メーカ任せにせず供給者として前面に立ち顧客に対応
3. 客先からの要望事項、クレーム情報は迅速に社内に展開
4. 代価回収・売掛金管理を強化
5. 販売代理店・サービス工場の空白地帯の迅速な整備
6. 協力企業会の運営を活発化させ、当社との団結と顧客サービス強化
7. 新支社開設後の当該地区に対する営業活動強化
1. 生産性向上
・工程整流化のためレイアウト改善、異常状態の見える化
・手配業務迅速化、調達部品検収、保管・JIT配膳等ICT技術を活用した効率化
・納期・品質・コストを勘案した内製化
2. 中期的生産レイアウト・生産設備計画
・ショットブラスト、塗装工場建設トレイアウト構想
・物流センターの整備
3. 安全衛生活動
・品質向上・生産性向上・モラルアップに密接に結びついた企業体質強化活動という意識をもって推進
・運搬・荷役・高所作業においてルールの確認と厳守
・KYM・TBMなど相互方向の職場ミーティングによるコミュニケーション強化
4. 品質保証
・不具合製品を工場外に出さないという強い意志のもと、工程内検査の更なる強化、仕損じの減少を推進
・不幸にして発生した不具合は「なぜなぜ分析」による徹底した原因把握
1. 調達部門はコストセンター(費用発生部門)でなくプロフィットセンター(利益創出部門)という意識の浸透化
・有利購買・戦略購買を推進
・高い買い物となる緊急調達は衆智を集めた最善策を選択しコストミニマム
・プロジェクトの資材費総額を概略でも早い段階で予想し早期に対策着手
・特殊品の調達は営業、技術と情報を密にし受注前より調達の検討を開始
・技術部門と連携しVA/VE手法等も活用しコストダウン活動実施
2. 資材マン育成
・外部研修、他社との交流等により価格積算能力、交渉力を兼ね備えた「調達のプロフェッショナル」を育成
3. 納期管理
・納期遅延、員数不足、仕様違いを防止するため納期フォロー・受入検査の徹底・遅延原因の究明
4. 取引先対応
・取引先の仕事量、負荷を把握し事前の対策実施
・新規取引先の開拓
・品質保証部門と連携し取引先との品質意識共有化
・大手ベンダーとは意思疎通と協力関係を保つ一方、要請すべき事は毅然と要請
1. 不具合・仕損・補償工事を出さないという全社的な意識を高める活動実施
・なぜなぜ分析を徹底し、補償工事・不具合の根本原因の究明
・再発防止を図るため再発防止委員会を活性化
・過去不具合事例の定期的フォローを行い、対策が有効に継続されているか確認
・品質向上策に対する「新機軸」を立案、実施する
2. 顧客クレーム、顧客要請事項への対応は営業、技術と連携し迅速な対応
3. 技術、資材部門と連携し変更点管理を徹底
・設計変更部分、ベンダー変更に伴う仕様・部品等の変更は重点チェックを行う
4. 重大不具合を起こした、不具合が多い部品事業者への重点的な品質指導実施
1. 若手の育成・早期戦力化
・エンジニアが会社の柱であるという気概と責任感をもたせる。
・難しい技術に取り組むチャレンジ精神を育む。
・相互方向ミーティング、声かけ等コミュニケーションを密にし、上司は課題を把握し、部下が問題を抱え込まず難問には衆知を集め解決する職場雰囲気を醸成
・外部研修など啓発の場に積極的に派遣し各種資格取得を奨励
・技術顧問に積極的に支援を求め技術力の吸収
・親会社との出向を含む技術交流を早急に実施
2. ・・技術開発を推進し、他社との差別化、さらには事業化を目指す
3. コストダウン設計の推進
・他部門からの改善提案は迅速に検討し結論を出す
4. 設計品質の向上
・出図管理、変更点管理の強化
・仕損じ・設計ミスの要因別分析によりプロジェクトチームで抜本的改善
・クレーム対応については品証部門と連携し迅速に対応
5. 客先からの提案要請、技術課題は営業部門と連携し迅速な対応実施
6. 設計業務の効率化
・業務分析を行い、無駄作業の排除
・顧客・ベンダー・他部門との仕様確定を急ぎ、手戻り・無駄作業防止
・管理職は部下の負荷管理を徹底し必要により振替休日取得等を指示
・営業部門と情報を共有し、設計操業度予想の精度を上げ負荷対策を前広に実施
・信頼できる設計外注会社を育成
以 上
部門長は上記の「部門要請事項」を持ち帰り、部門内で議論し、部、課、係単位に展開して「部門目標」を作成します。
「部門目標」は
・部門の活動方針
・部門の重点課題
・数値による達成目標
・スケジュール
などで構成され、その部門の年間行動計画が決定することになります。
中小企業では「部門要請事項」は経営者の思いがこもったリーダーシップの一つと思っています。
一つの事例として、中小企業経営者の方々の参考になれば幸いです。
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