トップポリシーを反映した事業方針とは?—私の中小企業経営(Ⅵ)

ビジネスと中小企業経営

企業では、年度初めに、その年の経営計画を示すことが必要です。

経営計画は数値計画事業方針から構成されます。

会社の経営環境を踏まえた、売上高・利益などの数値計画と、数値目標を達成するための事業方針です。

特に経営トップのリーダーシップで事業が展開する中小企業では、事業方針のなかで、経営者のポリシーや重点施策を明確にしなければなりません

事業方針を各部門で、さらにアクションプランに落とし込むことにより、会社が一つの目標に向かって動くことができるのです。

 

 

 

 

 

以下は、私が経営トップの時の事業方針の例です。

この年度は品質向上と労働災害の撲滅が喫緊の課題であり、この二つに力点を置いた事業方針としました。

中小企業経営者の方が、事業方針作成する際の参考になれば幸いです。

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事業方針

1.市 場 環 境

1) 主力製品

(1)主力製品Aについては、需要の一巡と消費税アップの繰り延べによる政府予算抑制の影響などで官公庁からの発注は減少傾向にある。

そのため今年度は競合他社との受注競争が激化し受注価格も低下した。来年度も同様の状況と思われ、さらなる原価低減が必要である。

また、20XX年度はすでに官庁向けを受注しているほか、公共施設用の大口案件の発注が見込まれており、必注案件として確実に受注していく。

またかつてのコンペチターが新開発製品で再参入する予定であり対抗策を早急に実施に移す必要がある。

(2)主力製品Bについては、今年度は上市した新型の投入等で受注増となった。

来年度はXXX殿向けなどでまとまった発注が見込まれているため、さらなる機能改良を図り、受注を確実なものとする。

これも同業他社が参入を表明しており情報収集を急がなければならない。

2) 新開発製品

(1)新開発製品Cの不具合については補修工事が完了し、その後の品質点検も実施した。

お客様の現場での当社製品の稼働状況や品質評価の聞き取り調査などを実施し、顧客の信頼を回復することに全力を上げる。

来年度売上としてXXX鉄道殿より受注したが、その他の大規模工場向け等については精力的に営業活動を行っており、その結果、引き合いも増えてきている。

(2)新開発製品Dについては、成約可能性が高い引き合いも増えてきている。

ただし、いずれの案件も採算的には厳しく徹底したコスト管理を行なう必要がある。

 

2.基 本 方 針

今年度策定した新中期経営計画(20XX~20XX年度)の事業方針を実現するために、以下の重点施策を推進する。

[新中期経営計画]
(1)主力製品(A・B)と新開発製品(C・D)を事業の2本柱として安定的な収益体制を構築することによりトップクラスメーカーとしての地位を確立する。

(2)数値目標は、20XX年度売上高150億円、経常利益20億円以上とする。

 

3.今年度重点施策

1) 高品質な製品づくりによる顧客信頼度の向上

(1)20XX年度は、前年度に発現した新開発製品の重要部亀裂、主力製品の不具合多発を受けて『品質確保』に経営の重点を置き、従業員の品質意識向上、工程内検査の強化、再発防止委員会での根本原因究明等を推進してきた。

成果はあがりつつあるが、まだまだ重大不具合にもつながりかねない事象が散発している状況である。今年度も前述の施策をブラッシュアップさせ継続していく。

(2)再発防止委員会では「なぜなぜ分析」を基本ツールとして不具合の根本原因の徹底究明と有効的な再発防止策を立案、実行、フォローを行う。

(3) 設計段階ではDR(デザイン・レビュー)の充実を図る。特に変更点管理を徹底してタイムリーな審議、現車確認等を実施する。

これまでの設計上のノウハウ、不具合事項等を集大成した設計ノウハウ集を早期に完成させる。

(4) 製造部内に新設した工程検査部門による工程内検査、指導を強化、特に3H(初めて、変更、久しぶり)作業でのミスの撲滅を目指す。

(5) 購入部品、外注部品の受入れ・検収の厳格化、定期的な主要ベンダーとの連絡会による品質情報の共有を図る。

(6) 不具合連絡会などを通じて、不具合・評価情報の迅速な社内伝達と対応を行う。

(7) 営業・品証・技術部門は連携して積極的に客先の現場訪問を行い、フィールド情報を収集する。特に新製品、モデルチェンジ車両に対しては情報収集に努める。

(8) 個人別品質目標の設定、品質ポスター・標語の掲示により、従業員の品質向上に対する啓蒙活動を継続する。

2) 新規顧客への積極的営業活動

主力製品の市場拡大・シェアアップ及び新開発製品の新規顧客開拓を目指し、積極的営業活動を推進する。

(1) 主力製品

・差別化オプションの開発と仕様化提案、技術プレゼンの強化を推進する。

・商社を活用した極東ロシアを初めとする海外への拡販を推進する。

・北米市場参入に向けた調査及び検討を行う。

・民間への売り込みについて販売代理店と連携し、きめ細かな営業活動を展開、
新規顧客の開拓、拡販を図るとともに中古・部品・設備等、周辺製品の販売を
強力に進めていく。

(2) 新開発製品

 

 

 

 

鉄道・大規模工場に対する粘り強い営業活動を展開する。

・アジア地区においては、親会社、商社との連携による海外保守車両の受注をめざす。

3) 新たな収益基盤の開拓

現状プロダクトラインだけでは中計達成は厳しく、新たな製品、新規事業へ進出していく。

(1)近年、販売を中断してきたXXの需要回復の兆しを踏まえ開発・再参入を検討する。

(2)新製品・新規事業、関連企業等とのコラボレーションを検討する。

(3)他社より申し入れのある種々の製品試作についても積極的に取組み事業化を検討する。

4)受注競争に打ち勝つコストダウンの推進

主力製品については価格競争の激化に加え、他社の市場参入が見込まれる。また新規製品は、引き合いも増えてきているが採算的には厳しい。そのためこれまで以上に資材費・製作費を中心としてコストダウンを徹底し競争力を強化していく必要がある。

(1) 設計、資材、生産部門の連携により品質を落とさないコストダウン設計を推進する。

(2) 資材部門は単に調達機能だけでなく利益創出部門としての意識をもって価格交渉を行うとともに取引先のコスト低減提案を奨励する。

(3) 生産部門は生産効率化及び内製化を活発化させ無駄なコストの流出を抑える。

(4)大手取引先の価格防衛は厳しいが、要請すべき事は毅然と要請していく。

5)生産拠点の集約を含めた生産能力の向上と効率化

生産拠点の集約と塗装工場、組立工場等の拡張を段階的に行い、生産能力の拡大と物流の効率化と図り、20XX年度売上150億円に対応可能な生産設備を整えていく。

(1) 工程の整流化、部品供給のジャストインタイム、異常状況の見える化を徹底し生産性向上を推進していく。

(2) 外注依存度の高いショットブラスト、部品塗装の内製化率を高めるため工場建設の検討を進める。

(3)生産拠点の集約化を段階的に進めていくために近隣の土地取得を進めていく。

6)人材育成・技術交流による技術力の強化

人員については、大幅増員は得策ではないものの市場環境を吟味した効率的な人員配備とともに今後の事業展開をにらみ開発と販売促進に重点をおいた人材の補強を行う。

(1) 20XX年度定期採用は-名(技術職-名、事務職-名、生産職-名)、20XX年度は-名(事技術職-名、生産職-名)とし、多様な中途採用も行う。

(2) 人材育成については社外活発に研修派遣を行うほか、輸出の拡大を睨んで外人講師を招聘した英語研修を継続する。

 

 

 

 

(3) 溶接技能の向上を目指し、初めて6人が溶接技能検定受験し、公的資格を取得した。今後はこの資格者を核として有資格者を増大させる。

(4) 全国からの有能な人材の確保と安全のため老朽化した独身寮を更新する。

7)安全衛生活動

安全の確保はすべてに優先する。

20XX年度休業災害が2件で前年よりは大幅に減少した。しかし、その内1件は転落事故で重大災害となった。

これを重く反省し、再発を防止し労災ゼロの職場作りを目指していく。

安全衛生活動は安全衛生にとどまらず、品質向上、生産性向上、職場のモラルアップにつながる企業体質強化活動であり、ルールの遵守・職場環境の整備・安全意識の啓蒙等、安全衛生活動を通して企業体質の強化を目指す。

(1) 各種転落防止柵を自社製作し導入する。

(2) 安全ルールの再確認と遵守の徹底を行う。

(3) 新入社員、応援者に対する安全教育を徹底する。

(4) 過去の災害事例のフォローによる類似災害の防止を図る。

(5) 職場での安全ミーティングを強化する。

(6) リスクアセスメントの早期導入を図る。

8)長時間残業の改善

この数年の高操業下で長時間残業が蔓延化しているため、この改善を図っていく。

(1) 可能な限り操業の平準化を行う。

(2) 時間外業務、休日出勤の厳密管理、代休取得等メリハリを利かせた労務管理を行う。

(3) 業務の効率化を推進する。

(4) 職場ミーティング、健康調査等によるフィジカル・メンタルヘルスケアを強化する。
以上



 

コメント

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