没後30年にもなる松本清張ですが、彼の残した膨大な作品群は今も多くの日本人に愛読されています。テレビドラマも数多く作られていますね。
わたしも清張の大ファンで、推理小説・時代小説・ノンフィクションなど、ほとんど読破したと言っていいでしょう。
清張のオススメの作品についてはいろいろ書かれています。
ここではこれまであまりリストアップされていないけど、オススメという作品を解説していきますのでおつきあいください。
第一回目は、「西海道談綺」です。この作品は清張の最高傑作の時代伝奇小説ですから解説は多いかも知れませんがどうしても外せません。
時代設定は江戸時代、幕府より銅不正流出の探索という密命を受けた男が西国で暗躍する巨大な陰謀を解明するという時代伝奇小説です。
現在の文春文庫では全4巻の大巨編ですが、読者は読み出したらぐいぐい物語に引き込まれ、あっという間に完読することは違いありません。
隠し金山をめぐる陰謀 [ストーリー]
作州・勝山藩の伊丹恵之介は妻の不倫相手である上司を斬り殺し、新妻の志津を鉱山の廃抗に突き落として脱藩します。
恵之介は江戸に向かう途中で出くわした大名同士の紛争を鮮やかに解決しますが、その際、偶然にも幕閣に隠然とした力を持つ茶坊主の北条宗全と知り合いになります。その宗全の世話で恵之介は御家人の養子となり、太田恵之介と名を改め幸運にも直参の身分を得ます。
程なく、恵之介は宗全に西国、日田の郡代手付として九州に出向するよう命じられます。昨今、豊後一円の鉱山から産出する銅が不正に市中に流出しており、幕府としては早急に真相を究明する必要があったのです。
九州の豊後、日田代官所に到着した恵之介は精力的に探索を開始しますが、恵之介の周辺では不審な事件が起こります
恵之介の部下が行方不明になり死体で発見されたり、その付近では筒井秀観と名乗る先達が率いる山伏集団の不審な動き、さらには頻繁に起こる村の若者の拉致や山崩れあとの多数の死体の出現など不可解な事件が続発します。
さらに恵之介は夕暮れの山々で御神燈と呼ばれる精気を発する現象を目撃し隠し金山の存在を確信するのでした。
謎が謎を呼び、やがて恵之介は怪しげな山伏集団や暗躍する役人、山師、商人などはもとより幕府中枢まで及ぶ大がかりな陰謀に立ち向かうことになるのです。
眠れない面白さ [総評]
「かげろう絵図」「天保図録」と並ぶ大傑作時代小説ですがかなり伝奇色が強い作品です。主人公の伊丹恵之介が妻の不倫相手である上司を斬り殺して許しを請う新妻志津を無慈悲に鉱山の深い廃抗に突き落とすという衝撃的な出だしから、江戸に出て旗本に大出世するという序盤の展開に読者はぐいぐいと引き込まれます。
クライマックスの日田の山中での敵味方入り乱れた追跡劇、あやしげな護摩修法の祭壇の燃え上がる炎に照らされた悪人どもの姿はまるで歌舞伎の1シーンを見るようです。
さらに清張は恵之介の恋人おえんに心を奪われる男たちと、謎の女お島をめぐる男女の憎愛など、色と欲のドラマを生々しく描きます。
前2作品よりも長さが2倍ほどにもなる巨編ですが、読者は読み出したら本を閉じることはできず、夜を明かすこと必定の面白さです。
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