影の地帯 清張を読む(2)<日常の裏で進行する巨悪に挑むカメラマンと謎の女>

オススメの本

好奇心の強いカメラマンが、身の回りに起こった不審な出来事を追求していくうちに、思いもよらない組織犯罪をあばいていく長編推理小説です。

影の地帯 (新潮文庫 まー1-22 新潮文庫) [ 松本 清張 ]

価格:1,034円
(2020/2/18 16:33時点)
感想(1件)

連続する不審な出来事と謎の女[ストーリー]

事件のはじまりは、フリーカメラマンの田代が東京に帰る飛行機の中で、偶然に若く美しい女性と声を交わしたことです。しかし女性の連れである気難しい小太りの中年男にはどことなく違和感を持ちます。

帰京後、田代の周辺では不審な出来事が次々に起こりますが、必ずあの小太りの男が登場します。

銀座にある、なじみのバー「エルム」のママが失踪し、後に死体で見つかるという事件が起こります。田代は失踪の直前、ママと小太りの男が密談している所をみて男が事件に関与しているのではないかと疑惑を持ちます。

また同業のカメラマン久野の自宅を訪問したとき、付近の雑木林のなかに不審な石鹸工場が建設されており、そこから出てくるあの小太りの男を目撃します。

その後、田代は雑誌の仕事で信濃の4つの湖畔を巡る撮影旅行に出かけると、またしても、例の小太りの男が、行く先々で姿を見せ、4つの湖に木箱を投げ込むという不審な行動をします

田代は、男の一連の不審な行動に犯罪の存在を確信し、男を追跡するものの確証は得られません。

しかし、やがてみえない組織は、田代の動きに気づきに、田代は幾度となく命を狙われます。そこに現れるのが機上で会った謎の女性で、彼女は田代を救い、事件に関わることをやめるよう警告するのです。

一方、別の事件を追っていた新聞記者の木南は、田代の情報を得て、大がかりな犯罪のにおいを嗅ぎ、独自の調査を開始します。

物語は偶然と必然が複雑に絡み合いながら、急ピッチで展開していき、田代の執念の行動力は社会の裏側で暗躍する犯罪集団を徐々に追い詰めていきます。

一気に読破できる長編[評価]

「影の地帯」は清張の前期の脂がのりきった時期の作品で、私の好きな推理小説の一つです。

日常の裏側で進行している重大な犯罪に、普通の人間が巻き込まれていくという、清張が得意とする設定の作品です。次々と起こる事件と謎が、やがて一つの真相に収斂していきます。スリルとサスペンスで読者をぐいぐい引張り、飽きさせません。

これは私の個人の好みかもしれませんが、ちまちました個人的な殺人事件よりも、巨悪が暗躍する事件であること、普通の生活をしている人が、ちょっとしたことがきっかけで大事件に巻き込まれていくという設定は好きなパターンです。

日常生活のなかに隠れているパックリと割れている陥穽にはまり込んでいく普通の人間. . . . .。自分にも起こるかも知れないというドキドキ感はいかがでしょうか。

田代が信濃の湖畔で事件のキーマンである小太りの男を追跡するシーンは、自然豊かな信州の湖畔の静かな情景が読者の脳裏に目に浮かび、謎の解明への興味とともに、いつかは事件の舞台に立ってみたいという旅情をかき立てます。

例によって魅力的な謎の美女が登場するのも、清張作品のパターンで、田代との関係の行く先も大変気になります。

書評を読むと、推理小説としては「影の地帯」は偶然の要素が強すぎるのと、死体の隠蔽方法が荒唐無稽であるといった批判もあり清張の作品のなかであまり評価は高いとはいえません。

しかし、仮に推理小説を「犯罪の記録」としますと、この作品は幸運な偶然が重なって事件が発覚し記録されたものとも言えます。死体の隠蔽方法は、逆に小説ですからそう目くじらを立てるものではないと思いますが、読まれた皆さんはどう評価されるのでしょうか。

この作品は700ページを超える長編ですが、一気に読破できるおすすめの傑作推理小説だと思います。





コメント