「鎌倉ものがたり」は「三丁目の夕日」とともに私が大好きな西岸良平の傑作人気マンガです。
怪異とミステリーが中心ですが「三丁目の夕日」同様、作者の人柄がにじみ出る優しさとほのぼの感に満ち、なにかしらノスタルジックな気持ちになる、大人から子供まで楽しめるコミックです。
昭和59年(1984年)2月9日号から『漫画アクション』で連載が始まり、『月刊まんがタウン』が平成12年(2000年)の12月号から創刊されると、「鎌倉ものがたり」は移籍し連載が今日まで続いています。
2019年に連載35年となり、単行本も35巻発行されました。
そこで、今回は「鎌倉ものがたり」について解説します。
「鎌倉ものがたり」の舞台設定とストーリー
「鎌倉ものがたり」は、推理小説家・一色正和が愛妻亜紀子の助けを得て、人と魔物が共存する不思議な街、鎌倉を舞台に繰り広げられる奇怪な事件や不思議な現象を鮮やかに解決していくという、ヒューマニティに富んだ物語です。
古都・鎌倉には、古来より魔界の結界が存在し、時々魔界に住む魔物や妖怪などが境界を越えて人間の世界に姿を現し怪異を起こします。
またそのせいなのか、夜には街角に人魂が漂ったり、長生きしたネコが霊力を持ったり、タヌキやキツネが人を化かしたりします。魔物専用のテレビチャンネルが映ることもあります。
鎌倉警察署には心霊課という、魔物が起こす事件を専門に扱う部署もあります。
鎌倉は、人々がそれらを普通に受け入れ、人間と魔物が自然に共存する不思議な地域なのです。
ところが、そこに人間のよこしまな欲望や恨みなどがからむことで怪奇な事件が起こります。
またライバルである怪盗ルパンならぬ鎌倉ルパンまで出没し、一色先生に挑戦してきます。
そういう事件にミステリー小説家の一色先生は敢然と立ち向かい、妻、亜紀子の協力を得て(というより、一色先生を事件に巻き込むことが多いのですが)、鮮やかに事件を解決に導くのです。
2009年、西岸良平氏は「鎌倉ものがたり」により第38回日本漫画家協会大賞を受賞し、代表作となりました。
また2017年、実写映画も、堺雅人(一色正和役)と高畑充希(亜紀子役)がW主演で『DESTINY 鎌倉ものがたり』として制作されました。
登場人物とキャラクター
「鎌倉ものがたり」には、異色の能力や魅力的なキャラクターをもつ多彩な人物が登場します。主要人物をご紹介します。
「鎌倉ものがたり」の主人公の推理小説家で35歳O型。鎌倉市長谷に妻亜紀子と二人で住み子供はまだいない。
鎌倉高校卒業で、東京大学文学部で日本史を研究。東大全共闘に所属していた。
熱帯魚飼育や鉄道模型が趣味で百人一首のカルタも得意。
代表作は『由比ヶ浜殺人事件』、『名探偵一色亜紀子』シリーズだが、遅筆でいつも締め切りギリギリに原稿を書き上げることが多い。
執筆締め切り間近でも、鎌倉警察署の大仏署長に支援を求められたり、事件関係者から調査を依頼されると、喜々として事件に首を突っ込む。命を危険にさらされることも度々ある。
剣道は三段の腕前で、高校時代は剣道部の中でも主将を務め、個人戦・団体戦ともに全国大会を制覇し、千葉周作、柳生十平、赤銅鉄之助とともに「鎌倉四天王」と呼ばれた。
弱点は高所恐怖症。
祖父は民俗学者、父は大学教授だが、母を含めてそれぞれ早くに死別した。
一色先生の妻。23歳、B型。一色先生とは、短大の時に出版社の文芸社で原稿取りのアルバイトをしていた時に出会った。
正和と一緒に歩いていると親子や兄妹にみられ、年齢より幼く見える外見にコンプレックスを持っている。服のサイズはSの7号。家を訪れる編集者には一色家のお手伝いさんと間違えられる。
実家は東京都練馬区大泉学園で、旧姓は中村。父、祖母、母、妹の由美子、弟の政彦の6人家族だった。年の離れた正和との結婚に、家族は難色を示していたが、正和が東大卒で、気さくなハンサムだったことから、逆にファンとなった。
趣味は少女マンガとディズニーアニメ。
注射が嫌いで病気になってもなかなか病院に行きたがらない。
『名探偵一色亜紀子』のモデルでもあり、ドラマ化の時には監督に気に入られ主演を頼まれた。
美人ゆえ異性や魔物に惚れられ、迫られたりすることも多い。
お人好しで活動家の面があり、よく事件に巻き込まれ、一色先生に心配をかけることがある。
一色先生の子供の時のお手伝いさん。年齢は本当は142歳らしいが本人は82歳といっている。
週2、3回のペースで、再び一色家のお手伝いを始めたが、体力、気力とも十分すぎるほど元気で、家事はなんでもこなす。
幽霊や妖怪の姿を見ることができる。
鎌倉警察署署長。おだやかな人柄なため、鎌倉の住民たちだけでなく魔物たちからも頼りにされ、慕われている。
一色先生とは日頃からの顔なじみで、鎌倉で手に負えない難解な事件が発生すると、躊躇なくに捜査支援を依頼してくる。
双子で見た目が全く瓜二つの兄が奈良警察署に勤務している。
髪の毛などの見た目が鎌倉大仏に似ている。
一色先生と長年のライバルである怪盗。
得意の変装を用い高級な美術品や宝石を狙うが、手のこんだ作戦を使って警察や一色先生を出し抜くことに生きがいを感じている。
一色先生によって何度か逮捕寸前まで追い詰められたこともあるが、まだ一度も捕まったことはない。
プライドが高く犯行の予告状を送ることがある。犯罪者ではあるが、あまり憎めないキャラクター。
強面の鎌倉簡易裁判所判事で、居酒屋「静」の常連で一色先生と顔なじみ。
三年間網走の簡易裁判所で判事をつとめ、鎌倉に戻ってきた。
背中一面に唐獅子牡丹の刺青が入っていて、その外見からヤクザと間違えられることも多い。
高倉健がモチーフとなっている。東大を卒業しており一色先生の先輩に当たる。
鎌倉在住の高名な推理作家。大量の資料を使い謎を作り出す小説を書き松本清張を思わせる。
幽霊の仕業で一色先生が松本と同じ話を書いてしまい、最初は盗作だと正和を非難したが、事件が解決してからは和解し交流を深める
普段は探偵業を営んでいるが、御成流忍術を受け継ぐ忍者。
部下を何人も率いCIA顔負けの諜報能力を持ち、一色先生の難解事件解明や、犯人逮捕に協力することも多い。
八ツ橋大学異常犯罪心理学研所長で異常犯罪心理学の第一人者。ワニに似た容貌で「羊たちの沈黙」のハンニバル・レクター博士を思わせる。
犯罪心理に詳しく、一色先生の難事件の解明に協力する事がある。オーディオマニアでもあり、音響関係の解析を行う。
亀ヶ谷の屋敷に住んで仔牛ほどの巨大な猫。
魔力を持ち、人間の言葉も話せる猫の総大将。年齢は100歳を超えている。
人間や猫たちから頼みごとや悩み事を相談されることも多く、見事に解決するため猫たちや人間たちから信頼されている。
鎌倉の魔物の総大将である高麿宮の長男。
結婚相手が、結婚式直前に亜紀子の友人の旦那と駆け落ちしてしまった時に、周りを気にせずに泣き喚めく気弱でわがままな性格で、その時亜紀子に一目惚れし騒動を起こした。
自分を襲ってきた魔物を強大な魔力により一撃で倒した事があるが、あまりの恐怖に気絶した、まだお坊ちゃまである。
「鎌倉ものがたり」傑作作品の紹介
35巻の珠玉の作品集の中から、私の好きなおすすめのストーリーを紹介します。
一色家の家も築40年で雨漏れが激しくなったので修理しようと夫婦で話し合います。亜紀子はヤモリまで家に住み着いているのにびっくりです。
そんなある日、「丹沢の棟梁」という見かけはともかく気は優しそうな男が通りかかり、亜紀子に「30万円の代金で、たった一晩で全部新築のように直してあげる。できなかったら代金はいらないが、その代わり一晩でできたら俺の嫁さんになってくれるか」といいます。
亜紀子は冗談だと思い工事を頼みますが、実は「丹沢の棟梁」は魔物ですごいスピードで仕事を始めます。
亜紀子はこのままでは約束の通り、魔物の嫁として連れて行かれることになります・・・(第2巻)
鎌倉に突如、これまでにない残忍な妖怪が出現し、強力な法力をもつ高僧たちが、次々に殺されます。
一色先生は鎌倉の仏教界の影のドンと言われる「大臣院」の「暗黒法主」に呼ばれ、事件の解決を依頼されるのですが、その時、角を生やした異形の妖怪が現われ、法主は法力も効かず、あっという間に斬殺されます。
この妖怪の恐るべきパワーを見て、一色先生は「零細寺」の「光輪和尚」に助けを求めます。
光輪和尚は30年の苦行の末、煩悩を断ち、悟りを開いた生き神様といわれ、世俗を捨て小さい寺の住職を務めている人物です。
光輪和尚を訪ねると、和尚は一色先生が何も言わずとも妖怪退治をお引き受けしますという。
その姿は後光を発し、身は宙に浮き、神々しく、一色先生は妖怪を退治できる唯一の人物と確信します。
そして3日後、妖怪が出現し、光輪和尚との戦いが始まると、妖怪はその恐ろしい正体を明らかにするのですが・・・(第5巻より)
一色先生は亜紀子と林の中を散歩中、久しぶりに「お化け屋敷」と呼んだ廃屋の前を通ると、小学4年生の時、後の鎌倉4天王の千葉たちと、いつもこの「お化け屋敷」で遊んでいたことを思い出しました。
4人は密かにこの秘密基地で白い大きな犬を飼っていました。しかしその犬はやがて弱って死んでしまいます。
4人は悲しみの中で「お化け屋敷」の庭に犬を埋葬しました。
一色先生は、そんな思い出を柳生十平と飲んでいるときにすると、柳生は飼っていたのは犬ではなくサルだったと言います。
お互い、犬だ、サルだと言い張るので、千葉周作に電話して確認すると、千葉はヤギだったと言います。赤銅鉄之助に聞くと、今度は、赤銅はアヒルだったと主張するのです。
そこで、4人が集まり墓を掘り返すことになりますが・・・(第11巻より)
鎌倉には「やぐら」といって山腹の岩を四角に削って作られた古い墓が点在しますが、近年は宅地造成などのため壊される事がよくあります。
そんなある日、高校時代の剣道部の仲間、千葉周作が謎の鎧(よろい)武者に襲われます。一色先生は千葉を見舞うと「15年前のうらみ」といって切りつけてきたと言います。
続いて同じ元剣道部の柳生十平、赤銅鉄之助も襲われると、一色先生は自分を入れた鎌高剣道部の「鎌倉4天王」を狙った者の仕業と考えます。
そこで一色先生は亜紀子が止めるのも聞かず、深夜、千葉たちが襲われた場所で、剣道着姿で木刀を持ち、鎧兜(よろいかぶと)の怪人の出現を待ちます。
すると、あたりに瘴気(しょうき)が満ち、ガシャ、ガシャと鎧の音がして・・(第15巻より)
鎌倉のとある家族、父・母・長女・弟と一匹のメス猫が借金のため一家心中をしようと、雪が降り積もる夜、鎌倉・葛原ガ岡(くずはらがおか)をさまよいます。
いよいよ死のうとするとき、魔獣が現われ、「金で済むなら助けてやってもいい。ただし、3年後、娘を俺の嫁に差し出すことが条件だ」といいます。
わらをもつかむ思いで魔獣に助けてもらうと、その後一家は借金が返せて商売も大成功し、幸せな生活を過ごしますが、やがて約束の3年がたち、魔獣より、「娘さんを約束通り迎えに行く」という手紙が来ます。
父親は思い悩み、一色先生に相談しますが、親思いの娘、由香は魔獣の嫁になってもいいと言います。
その時、飼い猫のペコが突然言葉を発し、「私が、これまで可愛がっていただいた恩返しに、魔力で由香お嬢さんに化けて、身代わりになります」と言い出すのです。
実はペコには恩返しのほかにもう一つ理由がありました・・(第17巻より)
鎌倉ものがたり・西岸良平の不思議な世界・まとめ
以上、「鎌倉ものがたり」を紹介しました。
西岸良平氏の持ち味は、人の温もりと、リアルなブラック性にありますが、「鎌倉ものがたり」は、ほのぼのとした雰囲気とともに、残忍な場面も遠慮なく描写し、作者の特徴が色濃く現われた作品といえます。
「三丁目の夕日」と比べると、ファンタジーの世界を描きつつも、ブラックなスパイスを増量した、少し大人向けの作品かも知れません。
ところで、「鎌倉ものがたり」には多彩な魔物が登場しますが、魔物とはいったい何者でしょうか。
作者は「史上最強の魔物」で一つの答えを示しています。実は自分の心に住む煩悩こそ魔物の正体かも知れないと。
「鎌倉ものがたり」をまだ読んだことのない方は、是非、一度古都・鎌倉の摩訶不思議でノスタルジックな世界を体験することをおすすめします。
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