古代から人々は、夜の暗い空に赤々と光る火星を不吉な星として見ていました。
その赤い輝きは、血や戦いをイメージするため、ローマ神話の軍神マルスから取られたマーズと言う名で呼ばれています。
しかも、火星は2年2ヶ月ごとに地球に接近します。さらに15年ごとには一番大きく見える大接近が起こり、スーパーマーズと呼ばれています。
その不気味な輝きを目にした古代の人々は、何か不吉な事が起こる前兆として恐れおののいたのです。
例えば1877年(明治10年)、その年の秋、火星が大接近しました。
日本では、同じ頃、西南戦争が起こり、庶民の英雄であった西郷隆盛が自決しますが、真っ赤な火星を見た人々は、「西郷さんが亡くなって星になった」、「千里眼で見ると西郷さんが見える」などと噂し合い大騒動になりました。
そして火星を「西郷星」、「最期星」などと呼び、高潔無私の西郷さんを偲んだといいます。
その火星が、現代では、一転「希望の星」となりました。
多くの探査の結果、火星はいろいろな点で地球と似かよい、太陽系では唯一、人間が住むことのできる可能性があるということから、火星移住計画が進められています。
火星はどのような星なのでしょうか?
火星移住計画は本当に実現可能なのでしょうか。
火星とはどんな星?水や生命の存在は?
火星は地球や水星、金星と同様の地殻型の惑星で、木星、土星などのガス星と区別されます。
火星は、地球のすぐ外側を公転周期は687日で廻っています。
直径は地球の半分で、質量も地球の10分の1、重力は地球の38%です。
地球から火星までの距離は、約5500万キロメートルあり、現在の技術で到達するためには約8ヶ月(250日)という時間がかかります。
自転周期は地球とほぼ同じですから1日の長さは変わらないことになります。
火星の気圧は地球の0.75%の希薄な大気しかありませんが、その成分は大気の成分は95%が二酸化炭素で3%が窒素です。
火星の平均気温はマイナス43度ですが、希薄な大気のため、火星の気温は熱しやすく冷めやすいので温度差が非常に大きく、最低気温はマイナス140度、最高気温は20度まで上ることがあるようです。
火星が赤く輝き、探査機による火星地上の風景が赤く見えるのは、表面が鉄の酸化物を多く含む赤い土で覆われているからです。
鉄を含む土が酸化し、赤い土となるには、かつて火星が大量の水で覆われていたためだと言われています。
これまで、火星には水の流れによってできたと思われる地形がたくさん見つかっていますが、火星の表面は荒涼たる乾いた大地で、水のようなものは見当たりませんでした。
したがって従来は、数十億年前は水が存在したものの、現在は存在しないという意見が大勢でした。
その考え方はNASAが1996年に打ち上げた「マーズ・グローバル・サーベイヤー」による観測により転換されました。
クレーターや砂丘の斜面などで、比較的新しい年代に水に浸食された痕跡が発見されたのです。
また2005年には、クレーターの同じ場所で以前に見られなかったガリー(溝状の地形)を発見し、それが枝分かれしていることから、そのガリーは水によって作られたのではないかと考えられました。
2008年、「マーズ・フェニックス・ランダー」は北極地域の地面の下に氷を発見し、土壌のサンプルからも水蒸気を発見し、火星の表面に水分があることが確認されました。
2018年、欧州宇宙機関の探査機「マーズ・エクスプレス」の観測結果、火星の南極にある分厚い氷の下に大量の水で満たされた湖を発見したと発表しました。
しかも生命に必須のミネラルを含んでいるのではないかと考えられています。
こうして火星に水が存在することが確実となったのです。
火星に生命が存在するのかは高い関心が持たれてきました。
これまでの探査では、火星には目視できるような生命は発見されていません。
しかし、火星にかつて水があった形跡が発見されたこと、また火星由来の隕石のなかに微生物のもとと思われる痕跡が発見されたことから、かつては生命が存在した可能性が出てきています。
そして、火星の両極の極冠の地下に水が存在することが確認され、またメタンの存在も指摘されました。
特に火星の地下の粘土が地表に噴出してできた「泥火山」にはメタンが相当生成されているのではないかと推測されていて、そこにメタンを食料とするメタン菌のような微生物が存在する可能性も指摘されています。
近い将来、火星で微生物が発見されれば、地球外で初めての生命の発見と言うことになります。
火星にはファボスとダイモスという2つの衛星があります。
その名は軍神マルスの息子ポボスとディモスの英語読みからとられ、それぞれ「恐怖」と「敗走」の意味です。
ファボスはラクビーボールのような形で、全長の一番長い距離は26m、短い距離は18mで、火星の1日の間に3回も回っており、少しずつ火星に近づいていて、いつかは火星に衝突すると予想されています。
ダイモスは長い部分で16m、短い部分で10mの長さで、30時間をかけて火星の周りを回っていますが、こちらは年々、火星から遠ざかっています。
火星の運河と火星人襲来・人面岩とは?
1877年の火星大接近の時、イタリアのミラノ天文台長、スキャパレリは天体望遠鏡で火星の表面にスジ模様を発見し、たくさんのスケッチを作成しました。
スキャパレリはそのスジをカナリ(canali)と呼びましたが、英語訳で運河/カナル(canals)として広まります。
多くの人々は、カナリを火星人が作った「運河」と考え大騒ぎになりました。
アメリカの天文学者、パーシヴァル・ローウェルは、スキャパレリの発見に同調し、火星には高度な文明を持つ火星人が存在すると唱えました。
二重倍加現象といって2本の平行なスジに分離した運河を見ることもありました。
ちなみに、ローウェルは日本研究者でもあり、何回も来日し、「極東の魂」など日本研究の著作を著し、彼が訪れた石川県穴水町では毎年5月9日に「ローウェル祭」が行われています。
しかし、火星の運河は見える人と見えない人に分かれました。
ギリシャの天文学者アントニアジなど多くの天文学者は大型望遠鏡でいくら観測しても暗い模様があるだけで運河状のものは見えず、錯覚に過ぎないと運河の存在を否定し、運河肯定派と否定派との大論争が続きました。
結局、1965年マリーナ4号が火星に到着すると、荒涼たる火星の大地の写真を送ってくるだけで、人工の運河はどこにも見当たらず、この長期間の論争は決着がついたのです。
火星の運河説はH・G・ウェルズの「宇宙戦争」(The War of the Worlds/1898年)のような火星人が来襲するSF小説も生まれました。
「宇宙戦争」は、ロンドン郊外に巨大な円筒が落下し、中から出てきたタコ型火星人がいきなり熱線を発射して人間を攻撃し、人類との戦争が始まるというストーリーです。
イギリス軍が出動し火星人と戦いますが、しだいに軍が劣勢となり、人類は追い詰められます。
しかし結局、火星人は地球に存在する細菌に感染し全滅するというアイロニーで終結します。
ところが1938年10月30日、アメリカの男優オーソン・ウェルズが「宇宙戦争」を脚色し、ラジオで火星人来襲を迫真の描写で放送すると、多くのリスナーが本当に火星人が襲って来たと信じ、大騒ぎになるという事件が起こりました。
放送局は何度も「これはドラマです」とことわりを入れますが、警察や放送局には問い合わせが殺到、電話回線がパンクするなどパニックを起こし、多くの住民が不安に陥りました。
この事件はメディアが及ぼす社会的影響の先駆けとして、数多くの研究対象となっています。
1976年、NASAの火星探査機バイキング1号が、火星の地上を撮影した奇妙な写真を送ってきました。
それは長さ3km×幅1.5kmにも及ぶ巨大な人間の顔で、周辺にはピラミッドなどの人工的物も見えました。
NASAは「光と影の具合で、たまたま顔のように見えるだけ」と説明したものの、古代火星人の遺跡だとか地球人がかつて作った人工物ではないのかといった臆測が世界中に広がりました。
オカルトファンのあいだでは、NASAが真実を隠蔽しているなど、人面岩の正体をめぐる議論は続きましたが、1996年にマーズ・グローバル・サーベイヤー、2006年にマーズ・エクスプレスが撮影した鮮明な岩石の画像は、バイキング1号が撮影したような人間の顔は映っていませんでした。
現在では、月の模様がウサギに見えるのと同様に、自然の模様が人の顔に見える「パレイドリア現象」で、その中でも3つの点が集まれば人の顔に見えるという「シミュラクラ現象」による錯覚という結論になっています。
しかし現在でも、人面岩は本当にエイリアンによる人工物であると主張する人々もいて、その証拠として、人面岩の中には「眼球」と「歯」があるなどと主張しています。
火星の人面岩は地球外生命体などが残したモニュメントなのか、それとも自然が作り出した造形物であり、顔に見えるのはパレイドリア現象に過ぎないのか、人面岩をめぐる議論は、まだ続いています。
火星移住計画とは?
2012年、オランダの実業家ランスドルプ氏が率いる非営利団体「マーズ・ワン」は火星に移住者を送り込む計画を発表しました。
発表後、世界140ヵ国から約20万人がこの計画に応募し、日本人を含む約100人の候補者が選定されました。
計画では当初は2022年に火星に人を送り込む計画でしたが2026年、さらに2031年に再延期されています。
この計画の大きな特徴は「片道切符」の計画であり、火星に行った人は地球に帰ることを前提にしていません。
したがって、倫理的に批判が沸き起こりました。
さらに財政的にも、この計画を実施する莫大な費用を調達することは不可能だとするのが大方の意見でした。
なお、2019年1月マーズ・ワンは破産宣告を受け、活動を停止中で新たな出資者と活動再開のため協議中とされていますが、今後の見通しは不透明のようです。
一方、2016年、電気自動車メーカーのテスラ社CEOでスペースX社の創設者でもあるイーロン・マスク氏は巨大なロケットを使って巨大な宇宙船を打ち上げ、2050年までに火星に自給自足できる都市を建設し、2060年代までに100万人の人間を火星に移住させる計画を公表しました。
その目指すところは、気候変動や戦争、小惑星の衝突などで、地球が危機に陥った際の脱出先の確保で、たとえ地球が滅んでも、火星などに移住できれば、少なくとも人類は生き続けることができるという発想です。
イーロン・マスク氏は、ロケットと宇宙船を何度も繰り返し再使用できるようにして、大幅なコストダウンを図ることや、地球周回軌道での推進燃料補給、そして火星の資源を活用した推進燃料の現地生産による効率化するなどのアイデアで計画を推進しています。
たとえばアポロ計画では地上から宇宙へ飛行し、月に着陸し、そして地球に帰ってくるまでに必要な推進燃料を、すべて積み込んで打ち上げていましたが、火星飛行でも同じやり方を採用するとなると、ロケットは途方もないほどの大きさが必要になってしまううえに、多数の人や物資を運べる余裕はなくなります。
そこで火星に行くのに必要なだけの燃料は宇宙上で補給を受け、火星から地球へ帰ってくるために使う燃料は、火星で現地調達することとし、人員や物資の輸送を最大化する計画です。
火星の大気には二酸化炭素があり、地下には水があるといわれていますのでその水を分解して水素と酸素を取り出し、そのうち水素を二酸化炭素によりメタンを生成し、メタンと液体酸素を、火星から帰還するための宇宙船の燃料に使用するのです。
2018年、スペースX社は、全長70mの現行機種では最大の大きさのロケットである、大型ロケットのファルコンヘビーの打ち上げに成功しました。
ファルコンヘビーにはテスラ社のスポーツカー「ロードスター」と宇宙服を着たダミードライバー「スターマン」を荷重の代わりとして搭載し話題になりました。
2020年5月30日、スペースX社は、2名の宇宙飛行士をのせた宇宙船「クールドラゴン」が民間で初めて国際宇宙ステーション(ISS)への有人飛行を実現させるという快挙を達成しました。
NASAはシャトル計画で費用がかさんだ反省からロケット開発はスペースX社やボーイングなど民間に委託し、NASA自身は宇宙探査などに注力する方針に変えていますが、スペースX社は着実に実績を積み重ねていて、イーロン・マスク氏の火星移住計画は一歩一歩実現に向かっていると言えます。
火星とはどんな星?生命の存在は?火星移住計画とは?まとめ
現在、アメリカだけでなく、インド、ロシア、中国、ヨーロッパ各国、そして日本など様々な国が火星を目指す宇宙開発競争のプレイヤーとして名乗りを上げています。
なぜ火星なのか?人類の最大の関心事である「火星に生命が存在するのか」「火星には人間が居住可能なのか」という問いへの答えを探すためです。
先頭を走っているスペースX社は地球と火星が接近する2022年には火星への無人ロケットを打ち上げ、2024年には有人のロケットを火星に送りこむ計画で、成功すれば人類初の有人火星探査が実現することになります。
二つの問いの答えはその時に明らかになるのでしょうか?
ところで、最近のスーパーマーズは2018年7月31日でした。
次のスーパーマーズは15年後の2033年7月5日ですが、今年2020年10月6日もスーパーマーズなみの大接近が起こります。
現在、世界中の人々は、治まる気配が見えない新型コロナウイルスに苦しんでいますが、その中で暗い夜空に赤々と光る火星を見たとき、世界の人々はさらに不安にかき立てられるのでしょうか。
*参考文献:「火星の科学」誠文堂新光社
オンライン英会話スクールではない、オンライン英会話スクール「アクエス」
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